私の「働くことと生きること」 その2 料理屋のお運びさん 

冬の五稜郭
あけびさんによる写真ACからの写真

18歳の時、高校にはまったく通わないまま、9月から半年ほど料理屋でお運びのアルバイトをしていた。

私が育った函館には、戊辰戦争の舞台となった五稜郭がある。その史跡は星形をしていて、横に建てられた五稜郭タワーから見るとその形がよくわかる。私が働いていたのはそのタワーに隣接した凌雲亭という料理屋だった。タワーの運営会社が経営していた。

小上がりのある小さな店舗と、その奥に団体客や宴会客を受け入れられる座敷があった。朝から昼頃までは店舗で接客をして、午後からはお座敷の準備やお運びをしていた。

朝、店に来たら白いブラウスと茶色いスカート、濃いクリーム色をしたエプロンに着替え、まず店舗の掃除とトイレ掃除をする。

次にやるのがエビの殻むき。エビは甘エビとボタンエビだ。その日の予約客の人数を確認して、刺身に必要な本数だけ殻をむいて厨房の冷蔵庫に入れておく。

エビは凍っているので流水で軽くとかしてからむく。エビの頭としっぽを残すようにむくのだけど、たまにしっぽが取れたりと失敗してしまうこともあって、そういうのは茶わん蒸しに使われた。ボタンエビは触角が硬くて手に刺さると痛かったから、ちょっと苦手だった。

店では和風ハンバーグ定食や刺身定食といった和定食を出していた。定食には必ずみそ汁とお新香をつけていたので朝のうちにその準備もした。みそ汁のお椀には巻き麩とふのりをあらかじめ入れてスタックしておく。お新香は切って小皿に並べ、それをいくつも冷蔵庫に入れておく。お新香は店で漬けていたのでおいしかった。

おしぼりの準備もあった。洗濯機で洗ったばかりの湿ったおしぼりを一枚ずつ巻いて金属のカゴに並べ、おしぼり用の保温機に入れておく。最初はおしぼりをうまく巻けないのだが、コツがわかってくると手早く巻けるようになる。毎日大量にやっていたので、たぶん今でもきれいに巻ける自信がある。

お客さんが店に来ると温かいお茶とおしぼりを出して注文を取り、厨房にオーダーを通す。寸胴につくりおきしているみそ汁を小鍋で温めてお椀に注ぎ、ご飯をよそい、できたメインと一緒にお盆に並べてお客さんのところへ持っていく。愛想がよかったとは言えないけれど、とにかく一生懸命やっていた。

お座敷の準備は箸やコップ、卓上鍋などを大量に並べていく。年末などの宴会シーズンは忙しかった記憶がある。私の通っていた高校が店に近かったので、一度だけその高校の先生たちの宴会があったが、見つからないようにこそこそしていた。

店に料理人は4人いた。当然というか、全員男性だった。一方、私のようなお運びさんは10数人いたが、こちらは全員女性だった。30~40代がほとんどで10代は私だけ。主婦で働いていた人もいたけれど数人で、ほとんどが離婚したシングルマザーだった。主婦が外で働くことはよほどの事情がない限りまだ珍しい時代だった。ほんの20数年前の話だ。

女性が多い職場ではあったけど、特有のいざこざみたいなのはほとんどなかった。どちらかというとみなサバサバした感じで親切だった。まだまだ子どもでおっちょこちょいだった私のことを、ハラハラしながら見守ってくれていたのかもしれない。

今さらながら、そういう大人たちのおかげで私は今まで生きてこられたんだよなぁと思う。

なお、凌雲亭はすでに取り壊され、その跡地には新しい五稜郭タワーが建っている。2006年のことだ。

タイトルとURLをコピーしました