「働くことと生きること」(水上勉)

水上勉の「働くことと生きること」という本がある。

ちなみに、このブログはタイトルが「はたらくこといきること」なのだけれど、水上氏の本の存在を知る前に決めたものなので、けして真似したわけではないことを一応お断りしておく。

この本はおもに水上氏が従事してきた仕事の体験を通じて感じたこと、考えたことなどを記したエッセイである。冒頭の「棺づくり」という一章は例外的に氏の父親の仕事について書かれている。

水上氏の父親は大工だったが、目の悪い自分の母親、つまり水上氏の祖母の世話をするため、外で家を建てるのではなく、家で棺や卒塔婆を作っていたという。

粗板でつくる棺桶は外見こそ荒々しい仕上がりなのだが、中はきれいにカンナをかけ、飛び出ている釘の足も「仏さんが痛がるでのう」とわざわざ寝かせた。

死んでしまった人が棺桶の中がどうであろうと気にするわけがないのに、ちゃんとカンナをかけ、釘を寝かせる。水上氏は「私の父は、棺づくりのなかで、自分の哲学をもち得たのではないかと思う。」と書いている。

そもそも外に出られない事情があったから、家でもできる棺づくりという仕事をやっていたにすぎない。心の底からやりたかった仕事ではない。けれど、心の通った仕事をしていた。

現代の複雑な事情の絡まった職場環境に身を置いていると、水上氏の父親の働き方からは、ひたすら自分の哲学に従ってもくもくと働くことのすがすがしさのようなものすら感じる。

働くことすなわち生きることなのである。

できるだけ多くの人から認められ、少しでも多くの給料をもらい、なるべく高い地位に就くこと。現代日本で働いていると、それこそが正しい道なのだとつい思ってしまうが、働くことの本質はそこにはないのだということをこの本は教えてくれる。

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